Braid 考察 -3- Braidにおける、「原子爆弾」の意味

  • 2012/07/02 特集

今日は広島に原子爆弾が投下された日。
日付が変わるまえに語っておこう。原子爆弾とテレビゲームについて。
– 平林久和 – 2011年8月6日

※『Braid』に加え、古典SF『アンドロメダ病原体』、1955年の映画『キッスで殺せ』のネタバレがあります。

◆関連記事
Braid 考察 -0- はじめに
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Braid 考察 -4- Braidの「不可逆性」と、「整合性」

「プリンセス=原子爆弾」か?

今回の記事では、
『Braid』の「警告」が、「ゲーム(業界)」に向けられているという根拠の2つ目を書きます。

それには、「原子爆弾」のイメージが関わっていますが、
しかし、ネット上の「プリンセス=原子爆弾説」に、私は異を唱えます。

「プリンセス=原子爆弾説」は「当たらずも、遠からず」。
プリンセスの意味は、「それ」だけではないので、「イコール」で結ぶことはできない、と私は考えます。

どういうことか、さっそく見ていきましょう。

「プリンセス≠原爆」

原子爆弾(マンハッタン計画、トリニティ実験、核)を象徴する要素

『Braid』の中には、「原爆」をイメージさせる要素が数多くあります。

ネット上の考察記事で、すでに明らかになっているものもあれば、そうでないものもあります。
まずはそれらを、簡潔にまとめてみましょう。

◆ ネットで見つけられた考察
参考:海外サイト The Story of Braid
参考:XBLAゲーム Braid ストーリー考察サイト訳(ネタバレ注意)
※他、個人様ブログ、2chスレ等

・ゲーム開始直後の燃えるような風景

・マンハッタンの(ツインタワー)を思わせる風景

・第一次、第二次世界戦争時に使われた、「I want you!」のポスターのように見える絵

・星を全て集めたあとの、シークレット演出「プリンセスの爆発」

「原爆」につながる様々な要素

・XBLAでの発売日が2008年の8月6日。

・「これで俺たちはみんなクソッタレだ」
>”Now we are all sons of bitches.”(これで俺達は皆糞ったれだ)と言った。
参考:wiki トリニティ実験

・佐々木禎子さんをモデルにした『原爆の子の像』は、「三つ編み(BRAID)」。
>海外では、広島に関するジャーナリストのルポルタージュに触発された作家がこの話を子どもの本の形で発表し、
>反核・平和運動の高まりに合わせ世界各国で翻訳され、広く知られることとなった。
参考:サダコ 実話から海外の子どもの本へ

原爆を扱ったグラフィック・ノベル(/アニメ)『風が吹くとき』と、「誰が風を見たのでしょう?」という詩。
※クリスティーナ・ロセッティさんのこの詩が、原爆についてのものなのか、調べても情報が見つかりませんでした。
参考:wiki 風が吹くとき

『sadako’s Cranes for Peace』と、『風が吹くとき』

◆ 私の推測、調査

・「指輪=核兵器」
世界的な物語小説、『指輪物語』。映画『ロードオブザリング』もヒットし、今もなお愛されている。
この物語に登場する「一つの指輪(支配の指輪)」は、当時の評論家達の間で、「核兵器」と解釈されていた。
>支配の指輪は原子爆弾の寓話であるという推測をするものは多かった。
参考:wiki 指輪物語

・夜空の「アンドロメダ座」と、『アンドロメダ病原体(The Andromeda Strain)』
物語のテンプレート、「アンドロメダ型神話」は、「プリンセスを追い求めるストーリー」を象徴する。
それに加えて、マイケル・クライトンによる古典SF小説、
「アンドロメダ病原体(The Andromeda Strain)」も、関係している可能性がある。
同小説は、「核ミサイル」や、「核自爆装置」が物語上大きなウェイトを占める上、
著者は、「科学の暴走」を描く作家として評価されている(た)。
参考:東北大学SF研wiki アンドロメダ病原体

・「クリスティーナ・ロセッティ」と、「マンハッタン計画」を扱った映画、『キッスで殺せ(Kiss Me Deadly)』
1955年のフィルム・ノワール作品『キッスで殺せ』は、
「放射性物質」と、「クリスティーナ・ロセッティ」が物語上、大きな関わりを持つ。
>「マンハッタン計画、ロスアラモス、三位一体」というと、彼は事態を悟り鍵を渡す.
参考:ロバート・アルドリッチ「キッスで殺せ!」の階段

『Braid』は、様々な作品を「取り込んで」いる

・「Braid(三つ編み)」。最初の核実験は「TRINITY(三位一体)実験」
さらに、最初に開発された原子爆弾は、投下された「リトルボーイ、ファットマン」と、
トリニティ実験で使用された、「ガジェット」の「3つ」であることもかかっているかもしれない。
参考:wiki トリニティ実験

・ティム(TIM)は「MIT(マサチューセッツ工科大学)」の逆転型?
当時のMITは、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校と並び、マンハッタン計画に大きく関わった。
また、マンハッタン計画を動かしていた中心人物、ヴァヴァー・ブッシュは、MIT副学長としても有名。
>NDRCはブッシュが局長を務める科学研究開発局の一部となり、
>同局はマンハッタン計画を含む戦時中の科学研究の調整・制御役を演じた。
参考:wiki ヴァネヴァー・ブッシュ
>MITは、軍と協力し、放射研究所を設立した。
>マンハッタン計画を~中略~バックで支え、コントロールしていたのは、ヴァネヴァー・ブッシュ
参考:ヴァネヴァー・ブッシュをご存知ですか(EJ1663号)

『キッスで殺せ(Kiss Me Deadly)』のワンシーン。

本題。なぜ原子爆弾なのか

なぜ「原子爆弾」のイメージを使ったのか。

「過ち」の象徴として? そのとおりです。
ですが、前回の「マリオ」と同じように、もう少し、深掘りすることできると思います。

上記の膨大なリストにお疲れでしょうから、さきに結論を言いましょう。

世界初のコンピュータゲームと言われる『Tennis for Two』の開発者は、
マンハッタン計画に関わり、原子爆弾の制御回路を開発した人物でもある
からです。

名前は、ウィリアム・ヒギンボーサム(William (Willy) A. Higinbotham,)。

彼の人生こそ、『Braid』が象徴するものだ、と言ってもよいでしょう。

参考:Tennis for two
※「世界初のゲーム」には諸説あります、念のため。

最初期のビデオゲーム、『Tennis for two』

ある科学者と、ビデオゲームの歴史

ウイリアム・ヒギンボーサムさんの経歴については、
ゲームアナリスト 平林久和さんのブログに簡潔にまとまっていたので、引用します。

ウィリー・ヒギンボーサム博士は、
自らの研究が原子爆弾の製造に使われることを知らされていなかった。
そして、実際にその爆弾が投下されたことを悔いた。

平和なコンピュータの利用方法として、「遊びに利用すること」を考えた。
そうして生まれたのが『Tennis for Two』だ。

のちに博士は、
米国科学者連盟理事として核拡散防止のため政府と調停活動を行っていた資料が残っている。
また、博士は核兵器拡散防止団体(Federation of American Scientists)の
初代議長と最高顧問を務めている。

原子爆弾の回路設計者が、反核を主張する科学者へ。

参考:原子爆弾とテレビゲーム Hisakazu Hirabayashi * Official Blog

もうおわかりですね。
「Braid 考察 -1- Braidのストーリー読解」で書いた混在ストーリーの1つ、
「科学者は、プリンセス(理想郷)を求めたが、『クソったれ』になってしまった」お話は、
ウイリアム・ヒギンボーサムさんの、「過ち」をモデルとしていると考えてよいでしょう。

そして、彼の人生を見れば、
「原子爆弾」は、「誤ちの象徴」という意味だけでなく、
「ゲームの発展に対する、最も大きな警鈴」と言える要素だ
、と言うことがわかります。

これが、『Braid』における「原子爆弾の寓意」であり、
「『警告』がゲーム(業界)に向けられている」事を示す、2つ目の根拠です。

「プリンセス=原子爆弾説」は、あたらずも遠からず。

プリンセスは「理想、追い求めるもの」。原爆は「取り戻せない過ち」。

『Braid』における「原子爆弾」は、象徴であり、本質ではありません。

繰り返しになりますが、Braidの作品全体の寓意はこうです。
「理想を求めた探求の結果、誤ってしまうことがある(から気をつけて)(特にゲーム開発者達!)」

つまり、人類全体に通じる、普遍的なテーマを描きつつ、
その中に、開発者ジョナサンブロウさんの、より具体的なメッセージを、内包/隠匿している。
そうすることで、テーマの「臭み」がなくなり、また、深みがさらに増すという構造になっています。

「プリンセス=原子爆弾」を「取り返せない誤ち」として結論にしてしまうと、そこに辿りつけません。
「当たらずも遠からず」だといったのは、そういうわけですね。

※記事を書いている途中で発見したのですが、ジョナサン・ブロウさん本人も、
「プリンセス」の象徴は原子爆弾が全てではない、とポッドキャスト?で明言しているようです。
英語に抵抗がない方はチェックしてみてください。(音声のため、ソース未チェック)
参考:The game is NOT about the atomic bomb (end spoilers)

次回予告

お疲れ様でした。
今回で、『Braid』の「テーマ」の大枠が明らかになりましたね。

次回記事からは、
その他の要素を検証し、考察に矛盾が無いかどうか、詰めていきたいと思います。

Braid 考察 -4- Braidの一回性。 「リセット不可能ゲーム」、お楽しみに。

二度と繰り返してはいけない。
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