Braid 考察 -4- Braidの「不可逆性」と、「整合性」

  • 2012/08/09 特集

良いデザインは、あらゆる細部まで一貫している。 -ディーター・ラムス-

※『Braid』に加え、映画『アビス』の軽ネタバレがあります。

◆関連記事
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「整合性」を確認

今回の記事では、
考察を行なっていない残りの要素が、「推測したテーマ」に添って解釈可能かどうかを検証し、
これまでの推測の確からしさと、作品全体の整合性を、確認していきたいと思います。

重要な部分は既に書きましたので、今回の記事も簡潔に述べていきます。

では、さっそく始めましょう。

ジャケットイメージの意味

まずは、ジャケットイメージから。

『Braid』はパッケージによってジャケットが異なりますが、
基本的には「割れた砂時計と城」が描かれたイラストが使われます。

意味はシンプルです。

「割れた砂時計」によって、時間の不可逆性(時は巻き戻せない)を表し、
その負荷逆な時間が形作る「砂の城(砂上の楼閣)」は、不可能、崩れ去る運命を象徴しています。

「割れた砂時計と城」

これまで述べてきた『Braid』の解釈と、そのまま合致しますし、
よく使われるアナロジーですので、わかりやすいですね。

パズルに描かれたワイン

次に、パズルに着目してみましょう。

ステージ6のパズルについては、前回言及しましたので、
本記事では、残りの四枚のパズルについて考えたいと思います。

『Braid』のパズルを組み合わせてできた絵には、ワインと思しき絵柄が描かれていますね。

このワインの解釈に関しては、
「ジェファーソン・ボトル事件」がヒントになるかもしれません。

ステージ2、3のパズルと、「ジェファーソン・ボトル(左方)」

事件について調べると、
「世界一高い値段のついたワイン」と、「核実験(セシウム)」の、大きな関わりを知ることができます。

セシウム137の大部分は人工核分裂生成物であるので、
核実験が始まる以前ではほとんど存在していなかった
この同位体から放出される特性γ線を観察すると、
ある放射性物質が核爆弾が炸裂した後のものか前のもかが分かる。
この過程はジェファーソン・ボトルなどの
高級ワインの鑑定に用いられた(ジェファーソン・ボトル事件)。

参考:セシウム137

初めてこの鑑定方法が使われたのが25年ほど前。~中略~
鑑定を依頼されたフランスの核物理学者がこの方法で解析した。

参考:放射性セシウムによるワイン鑑定

言うまでもなく、「原爆(実験)」のイメージに繋がります。

パズルに描かれた「アビス」

次は、ステージ4(3番目)のパズルの意味を考えてみましょう。
映画ファンの方なら、すぐにピンとくるかもしれません。

まずは画像をご覧下さい。
画面左方に、ジェームズ・キャメロン監督作品『アビス』を思わせる部分がありますね。

この「意味」はなんでしょうか。

ステージ4のパズルと『アビス』

それは、『アビス』のあらすじを見れば、すぐにわかります。

『アビス』は、前回記述した「アンドロメダ病原体」と同じく、
物語のサスペンスの中心に「核弾頭を巡る攻防戦」がある作品なのです。

海底油田の発掘基地近くの海域で、原子力潜水艦が行方不明となる。~中略~
原潜沈没の原因をソ連の攻撃と信じる彼は、
報復のため密かに沈没した原潜から核弾頭を回収する。~中略~
核弾頭を巡る発掘基地クルーとコフィとの攻防戦…
やがて海溝深く沈んだ核弾頭を無力化するため、バッドは人類未踏の深度へと潜航する

参考:wiki アビス

また、パズル右方には、飛行機の模型が二機飛んでおり、これは次のパズルに繋がっていきます。

パズルに描かれた「空軍」

ステージ5(4番目)のパズルには、「空軍」のイメージが含まれています。
これも、画像を見ていただくのが早いでしょう。

左が「エノラ・ゲイ」。右がステージ5のパズル

まず、パズル右方上部にある「マーク」。
これは、第二次世界大戦当時の、空軍のバッジに似ています。
参考: ヴィンテージジュエリー USA海軍・陸軍・空軍当時もの (画像引用)

また、パズル左方にある「飛行機」は、
原子爆弾を投下した機体である、「エノラ・ゲイ」を想起させるようなフォルムをしています。
参考:wiki エノラ・ゲイ

さらに注目して欲しいのは、
画面中央の人物(TIM?)と、右上の制服を着たような女性だけが、左方(飛行機側)を向き、
その他の人物は全員右を向いていることで、
これは、「軍への関与」「逆の流れ」を表している、と考えられるかもしれません。

流れとは「逆」

「詩」に関する考察

『Braid』は、クリスティーナ・ロセッティさんの詩「The Wind」を引用しており、
これが、『風が吹くとき(When the Wind Blows)』という「原爆」を扱った作品を連想させることは前回書きました。

今回そこに、もう一つの私なりの解釈を付け加えたいと思います。

まず、クリスティーナ・ロセッティさんの、実の兄である、
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティさんに着目します。
参考:wiki ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ

彼は、「ラファエル前派」の画家として有名です。
そして、「ラファエル前派」は、「象徴主義の先駆け」(として扱われることが多い)です。
参考:wiki ラファエル前派

「象徴主義」を大雑把に言えば、
「(写実主義的な)現実の風景ではなく、理念を象徴によって表現しよう」というアートの潮流です。
参考:【象徴主義 -Symbolism-】

さて、ここで、「The Wind」からの引用を、見てみましょう。

誰が風を見たのでしょう? 誰もみたことはありません
でも木の葉が囁く時 風は通り過ぎている

「風」は、「目には見えない何か」を象徴する要素としてよく使われる要素です。
この詩についても、そう考えるのが自然でしょう。

まとめると、
「The Wind」は、「象徴主義の先駆け」である「ラファエル前派」に関係が深い
クリスティーナ・ロセッティさんが、「見えないもの」について書いた詩です。
と言うことは、この詩自体が、「象徴主義(的作法の先駆)の象徴」とも取れるわけです。

つまり『Braid』は、「The Wind」の引用によって、
自身の、「ゲーム文脈における象徴主義(的作法の先駆)的な立場」を表明しているのではないか

と考えることができます。

もし、そこまでの具体的な意図がなかったとしても、『Braid』の無数の暗喩表現を考えれば、
「目に見えないもの(寓意)に注意をはらってね」というメッセージであると解釈することは、
十分に可能でしょう。

『オフィーリア』 ジョン・エヴァレット・ミレー

隠し要素「星」について

『Braid』の隠し要素、「星」は、通常プレイでは基本的に発見不可能な隠し方をされており、
また、全てを集めるためには、「ゲーム記録をリセットし、最初からやり直さなければいけない」
という厳しい条件があります。
そして、先述の通り、全ての「星」を集めたとしても、「プリンセスは救えない(手に入らない)」。

さて、なぜこのような仕様にしたのか。

それは、この隠し要素「星」の「取得手続き全体の構造」が、
他の要素と同じように、作品のテーマを象徴/補強するからです。

「星が手に入らない」事は、「夜空のアンドロメダ座が完成しない」ことを意味し、
アンドロメダ座(型神話)」は「プリンセスを追い求める定形ストーリー」を象徴します。

つまり、『Braid』の「星が手に入らない」という構造は、
「プリンセスは手に入らない」ということを表している
のです。

同時に、「記録を消して最初からやり直さなければいけない」ということが、
「時間の不可逆性(時は戻らないということ)」を強調
します。

この部分は、先述の、「割れた砂時計」と、
「実は時を巻き戻せていない」という解釈を、補強していますね。

さらに、全ての「星」を集めた、と思っても、
アンドロメダ座の下で、上キーを押すと、それらは消え去ってしまいます。

アンドロメダの星々が消える

『Braid』においては、「プリンセス」は、絶対に手に入ってはなりません。
なぜなら、全体のテーマとの整合性が崩れるからです。

『Braid』の「旗」

『Braid』の「旗」は、すべて「間違った方向への進行に対する警告」を発していて、
本作のテーマを補強しています。

ネットで容易に発見できる考察ですので、本記事では確認にとどめます。

上段が、国際手旗信号図とその意味、下段は、各ステージフラッグのスクリーンショットです。
参考:The Story of Braid
参考:みんなの知識【ちょっと便利帳】 – 国際信号旗(画像引用)

ただ、最後の旗だけは、国際手旗信号に該当するものがないようですね。
この「緑色の旗」は、どのように考えればいいのでしょうか。

「緑色の旗」が登場するのは、ゲームの「EPILOGUE」です。
そのシーン全体で考えてみましょう。

「EPILOGUE」の解釈

この「EPILOGUE」の解釈が、本記事における、最後の考察です。

では、画像を御覧ください。

「EPILOGUE」

さて、ここで注目すべき点は、2つあります。

1つ目は、
エピローグでは、各ステージを通過した証(ステージアイコン)である
「石」によって城が作られていること。(「砂の城」ではない)

2つ目は、
これまでの全ステージで「旗を降ろし」ていましたが、
エピローグでは「旗を揚げる」こと、です。(動画などでご確認ください)

全体を通して「過ってしまう」『Braid』ですが、
経験を「積み上げられる」こと、「学び」の可能性を、「(砂ではない)石の城」で、表し、
さらに「旗の上昇」によって、これまでの「逆方向(過ち)」ではない方向への流れを、暗喩しています。

彼の中で、過去の一瞬一瞬が、形あるものになっていた。
それはまるで石のように見えたので、彼はひざまずくと、
一番近くにあったひとつに手を触れてみた。
指を滑らせてみるととてもなめらかで、少しひんやりしていた

その石はなんとか持てるくらいの重さだった。他も同じだ。
これを積み重ねれば、土台をつくり、盛り土をして、お城だって建てられる

この二点を踏まえ、かつ、これまでの『Braid』全体の構造を考えれば、
「緑色の旗」が、何を意味しているのかは、想像に難くありません。

これは、核廃棄を宣言*した、リビアの国旗です。

リビアは~中略~
核兵器など大量破壊兵器開発の事実を認め、即時かつ無条件の廃棄を表明。~中略~
核放棄の見返りを得る先例になった。

参考:リビアの核開発放棄
参考:大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国

「緑色の旗」は、リビア国旗

つまり、「EPILOGUE」はそのシーン全体で、
「(人類が)過ちから学びとることの実現可能性、またはその兆し」を意味しているのです。

*核廃棄宣言は、リビアの他、南アフリカも行なっています。
『Braid』が象徴として南アフリカではなく、リビア(の国旗)を選択した理由については、
いろいろ考えられますが、「このあたり」も関係しているのでしょうか。
また、「緑一色」というデザインは単に扱いやすいという事も関係するかもしれません。
なお、リビアの国旗はカダフィー政権が崩壊した(2011年2月17日)後、「緑一色」から旧デザインに戻りました。
参考:wiki リビア

まとめ

今回はここまでです。
お疲れ様でした。

今回の記事では、『Braid』のテーマと、その他の多くの要素の、整合性が確認できましたね。
大きな矛盾はありませんので、推測したテーマは、確からしいと言うことができそうです。

【追記】
もう一本記事を書く予定でしたが、更新する余裕の無い状態が続いていますので、
一旦ここで、本考察を終了とさせていただきます。
ご覧いただき、ありがとうございました。

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