スキタイのムスメ:音響的冒剣劇 レビュー  「音楽を聴く気分で」

  • 2012/06/27 レビュー

Steam 日本語版をプレイ。英語、携帯版、未プレイ。プレイ時間4時間、一周(100%)クリア。

※軽ネタバレあり

はじめに

独特なグラフィックスタイルと、漏れ伝わる前評判の高さから、
インディーゲームファンの間では注目度の高かった本作。

iOSアプリのPC版が、国内向けにローカライズされ、ツイッターを使ったプロモーションや、
英語版購入済のユーザーでも、追加支払いなく日本語版を遊べるとあって、
気になっている方も多いのではないでしょうか。

さて、その『スキタイのムスメ』。
正直な感想を、先に書いておきますと、
どうにもとらえようがない、扱いに困る感じのゲームだな、というのが第一印象でした。

それは、どういうことか。
以下、具体的にレビューしていきましょう。

ゲームデザイン

まずは簡単に、ゲームデザインを見てみます。

『スキタイのムスメ』は、見た目は独特ですが、
基本的には、簡素なアドベンチャーゲームと言ってよいでしょう。

移動は、行きたい位置をダブルクリックで指定するタイプで、
そのままクリックをつづければ、目的地を動的に変更させる事もできるようになっています。

ゲームのメインとなるのは、ポイントクリックや、様々なマウス操作による謎解きで、
所々に、盾と剣の2つのボタンを、タイミングよく押す、バトルパートが挟まります。

左クリック長押しで、「詠唱モード」に入って、怪しいところをトントン

本作において、基本的に、うーんと悩むようなところはなく、
ほとんどの謎の「答え」を、テキストやセリフで教えてくれます
し、
難易度も低いので、適当にさわっていれば、そのうちに解けるようになっています。
ゲームに慣れていない方でも遊べそうな、
やさしい難易度は、元々iOSアプリだった影響でしょうか。

また、ゲームのタイトルにもある通り、「音響」にも気を使っているようで、
木々のざわめきや滝の音、妖精をクリックした時の、浮遊感のある効果音などは、
とてもここち良く響きます。

他にも、フォントにもこだわりを感じさせる、クオリティの高いローカライズや、
独特なグラフィックスタイルで、全体的な見栄えはとても良く、
「ミスターX」ばりな謎の男による、序盤のストーリー進行とあわせて、
プレーヤーをスムーズに、ゲーム世界に誘います。

ローカライズの質はすばらしい

「ゲーム」としては、問題だらけ

見た目からうける印象はとても良いゲームなのですが、
「ゲームとして面白いか?」と聞かれれば、私は、「ノー」と答えます。

このゲームは、「ゲームとして見ると(というのも妙な言い方ですが)」、とても問題が多い作品です。
以下に例をあげましょう。

・無意味な往復を、何度もしなければならない
主人公の移動は速くなく、マップが切り替わるたびに、ダブルクリックしなければならない上、
長い距離を何度も往復しなければならない仕様は、きつい。

・バトルは単調
時折挿入されるバトルは、敵の行動バリエーションが少ないために単調で、
一度行動パターンを覚えて「勝ち方」がわかった敵に対しては、負けることはほぼありえない。

・避けられない繰り返しバトル
特定のポイントで「悪い霊」が湧き、序盤はこの敵を避けられないため、繰り返し戦うことになる。
経験値や、アイテムといった報酬が無い上、勝つことがわかりきっている相手との単調なバトルは、
「作業」を通り越して、「修行」といっていいレベル。

・飛ばせない繰り返し演出
「悪い霊」が登場するたびに、10秒以上かかる演出を、繰り返し見なければならない。
また、一度キャラクターに「話しかける」と、途中でテキストを停止させることはできないのに、
テキストの切り替わりは、ふんわり。スピードはゆったり。

特に、面白くはないバトル

このゲームは元がiOSアプリなので、そちらに最適化された形なのかもしれませんし、
移植の影響で、このような形になってしまったか、とも思いましたが、
アプリ情報サイトを軽く調べて見たところ、
PC版同様に、ゲーム部分や操作性の難を指摘されているようでした。
つまり、『スキタイのムスメ』は、もともと、「そのような」作品であったということなのでしょう。

単に「ゲーム」を期待すると、楽しめない可能性が高いです。

「アート」ではないが、演出が素晴らしい

さて、このように、ゲームとして見ると問題が目に付く作品ではありますが、
『スキタイのムスメ』は、「つまらない」と切って捨てるにはおしい魅力を持っています。

それはなにか。
まずは、その「グラフィックスタイル」です。

『スキタイのムスメ』のグラフィックは、単なる懐古趣味的なドット絵ではなく、
確固たるスタイルを持っていて、腕と足が「テレーン」と伸びた、おかしな人体デフォルメは、
ゲーム全体の珍妙な雰囲気との親和性も良く、
新しいもの好きな方には、アピールする要素となるでしょう。

また、このゲームは光を感じさせる演出が非常にうまく、
特に、ゲーム中盤以降で登場する「月の部屋」が、素晴らしい。

暗い道を、テクテクと歩いた先に、ぼうっと浮かび上がる大きな月と、その周りにきらめく星々は、
ドットだからどうこう、というレベルを明らかに超えた、ハッとするような美しさを備えています。

「月の部屋」は、ぜひ見て欲しい

さらに、三体存在する「ボス」とのバトルの雰囲気も特筆すべきポイントです。

三体の「ボス」も、攻撃パターンは単調かつ重複気味で、
戦闘自体は退屈な上に、攻撃前の「ため時間」が長いため、
ともすると、このゲーム最大の残念ポイントになりかねない部分ではあるのですが、
素晴らしい音楽と、幾何学的な形態から発せられる光の演出など、
総合的に見て、とても神秘的な雰囲気が出ています。

そして、その「単調さと、神々しさの妙」によって、宗教的儀式ような心理状態、
つまり、「軽トランス状態」をプレイヤーに発生させうるのではないか、
そう思わせるほど、本作のボスは、本当に、神々しいです。

さらに、ボスバトル後に、BGMが大きくなって、「ジャジャーン!」と派手な音楽が鳴る演出も、
あなたの気分をぐっと高揚させてくれるでしょう。

静止画では、あまりにも地味に見える、「ボス」だが……

さて、やたら「神々しい」側面を推しましたが、
しかし、このゲームは、「アート的」に親しんで欲しい、という意図は、あまり無いようにも感じます。

というのも、テキストのノリが、異常なほどに「軽い」のです。

「幻想的な雰囲気」の世界感でありながらも、
昨今の「アートゲーム」な流れを忌避するような、現代的かつフランクなセリフが多いため、
このゲームは、既存のゲーム群から浮いた、やや逸脱した存在になっています。

幻想的な気分に浸っているところに、
「まあ、どうでもいいが」とか、「わたし、めっさスゴイ」とかいうテキストを放り込んでくる辺りは、
人によっては、拒否反応が出る可能性もあるでしょう。

つまり、「アート的な体験」ばかりを期待すると、脱力感を味わうことになります。

「音楽的」側面からみえたもの

「ゲーム」としても、「アート」としても、楽しむのが難しいこの作品は、
では、どのように受け止めればいいのでしょうか。

英語版タイトルは「EP」とついていますし、「アナログレコード」のイメージがハッキリ挿入されるところから、
この作品は、「音楽アルバム」を想起させるような作りになっています。

夢と現実世界の切り替えを、レコード盤のA面、B面の裏返しとして表現していますし、
滝をドラッグすることで、ハープのような音色を奏でられる場面もありました。
主人公が物語の進行に応じて体力を「すり減らす」のも、
「アナログレコードの摩耗」と、かかっているのかもしれません。(どうだろう)

ゲームを、音楽アルバムのように楽しむ……?

しかし、音楽をイメージさせるとはいっても、
それによって、この作品の理解につながる感じはありません。

ただ、
もし仮に、このゲームが「音楽アルバム」であり、それを「とらえどころがない作品だ」と感じたならば、
「楽しめないのは、自分の耳が、肥えていないからなのでは?」、とまずは思うはず
です。

私はこの作品の「ゲーム部分」に関しては、面白いとは思いませんが、
かといって、つまらないのでおすすめはできないとは言えない。

どっちつかずな態度ではあるのですが、
私は、結局のところ、この作品を「とらえどころがない」まま、保留しておきたいのです。

買ってみたアルバムを、数年後聞くと、まったく別の、素晴らしい音楽に生まれ変わったりする、
「あの現象」に期待して、もうちょっと、寝かしてみたい。

『スキタイのムスメ』の音楽的要素に、私は、そんな事を思いました。

まとめ

「ゲーム」を期待するとストレスが溜まるでしょうし、
「アート的体験」を期待すると、脱力感を味わうことになるでしょう。

『スキタイのムスメ』は、
言ってみれば、「不思議ちゃん」と付き合う時のような、ある種の寛容さが必要ですが、
その型にはまらない挑戦的なスタイル、奔放さ、素晴らしい演出が、
あなたの心のどこかを、刺激する可能性は、大いにあります。

プレイ時間は短いですが、この作品が成立するには、適当な長さだと思います。
リッチな音響と、大画面で遊べるPC版は、アプリ版よりもオススメできそうです。

音楽を聴くように、ゆったりと付き合いたいゲームですね。

PLAY?
◆公式サイト
http://sworcery.jp/

◆販売サイト(Steam)
http://store.steampowered.com/app/204060/

◆関連
Steam版『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』ユーザーが、『スキタイのムスメ』を遊ぶ方法。

◆書いた人
@Shoji_Hibino

※一部変更、追記 20130123

更新情報は、こちら