『To the Moon』 レビュー 「『あの頃』へ」

  • 2012/11/12 レビュー

プレイ時間三時間弱。1周クリア。マウス操作。
※PLAYISMレビュワー公募企画に応募、日本語版ベータをいただいてのプレイ。
※本レビューは少し長いです。下記OST(Bandcamp)をBGMに、ゆったりお読みいただければ幸いです。

「ゲーム」と、「泣き」の衝突

「泣ける」というCM、映画、漫画、小説はたくさんあるのに、
「泣ける(非ノベル)ゲーム」が少ないのはなぜでしょうか。

答えは簡単です。
インタラクティブなメディアであるゲームは、入力という能動性が求められるが故に、
ストーリーと、もっと言えば「泣き」と、基本的に相性が悪い媒体だからです。

それは例えば、忙しく手を動かしているときと、何もせずリラックスしているとき。
どちらが、涙を流しやすいかを考えれば、わかります。
(ゲームとストーリーをぶつ切りにして交互に見せるアプローチが最悪だということは、もっと明らかです)

さて、今回レビューする『TotheMoon』は、「泣ける」と評判のゲームです。

私は、レビュアー公募企画に応募したくらいですから、
本作の出来には期待はしていました。
と同時に、やっぱりどこか、「疑って」もいました。

『TotheMoon』は、大人の鑑賞に堪えるレベルの作品なのか。
安っぽい「お涙頂戴」ではないのか。
仮にストーリーが良いとしても、それがゲームである必然性はあったのか。

結論を言うと、それらの心配は、全て杞憂に終わりました。

宮本茂さんは、松本人志さんとの対談の中で、こう言っています。
「ゲームっていうのは自分のした苦労に対して泣く、んでしょ?」

しかし、三時間弱であっさり終わってしまう本作には、大した「苦労」はありません。
では、どうして本作は、私だけでなく、多くの大人を泣かすことができたのか?

それには、ある「巧妙なしかけ」が関係していると、私は考えています。

「ストーリーのためのゲーム」

まずはじめに、『TotheMoon』がどんなゲームだったのか、簡単に記載したいと思います。

本作は、RPGツクール(海外ではRPG Maker)で作られた、アドベンチャーゲームです。
操作は、キーボートやコントローラーにも対応しているようですが、
ポイント・アンド・クリックアドベンチャーのようにマウス操作可能で、
今回はそちらを使用しました。

本作の目的は、昏睡状態に陥った老人、ジョニーの「月へ行く」夢を叶えること。
プレイヤーは、それを請け負った「シグムントエージェンシー」から派遣されたエヴァとニールを操作し、
特殊な装置を使って、記憶の中へ入り込みます。

ジョニーの記憶と紐付いたアイテムであるメモリリンクを5つ集め、
簡単なパズルを解いて「メメントシステム」を起動させ、さらに過去の記憶へのジャンプを繰り返す。
これが、ゲームの基本的な流れになっています。

ただし、これらは難度的に非常に易しいため、ゲーム的な障害としては、ほとんど機能しておらず、
その代わりに、ストーリーへの没入を途切れさせない、というバランス
になっています。

エヴァとニールの会話劇は、シニカルかつユーモラスで、
ゲームの雰囲気が、甘ったるくなり過ぎない、鬱っぽくなり過ぎないように、
ピリッと引き締める機能を持っています。

「ゲーマー向けのジョーク」も、爆笑とまではいきませんが、
インディーゲームをプレイするような熱心なゲーマーであれば、
好意的に受け止めることができるでしょう。

ストーリ運び自体はかなり上手く、
ミステリアスに謎をばらまきながら、プレイヤーの注意を引きつつ、テンポよく進行
していきます。

多少のぎこちなさや、説明過剰を感じさせる部分はありますが、
基本的には、とても現代的な調整の、間口の広い作品だと言えるでしょう。

さて、
そんな、快適で現代的な作品である『TotheMoon』ですが、
一部、どうしても、違和感が残る部分も、ありました。

「ロトの血をひかないプレイヤー」

最近では『DearEsther』、あるいはモノ言わぬ「ゴードンフリーマン」、
古くは『ドラゴンクエスト』の「勇者」など、
良くできたゲームの、操作キャラクターは、無口で、自己主張をしません。

そこには、「プレイヤー=操作キャラクター」という図式を維持しつづけることで、
よりゲーム内世界、ゲームプレイに没入させよう、というデザイナーの狙いがあります。

そのような目で見ると、『TotheMoon』は、ちょっと変わっています。

本作では、だれにも感情移入できないのです。

例えば、プレイ開始時の、
メインキャラ四人に対する私の印象は、以下のようになります。

基本操作キャラクターであるニール(男性)は、「シニカルでなんとなく嫌なやつ」。
ニールの相棒であるエヴァ(女性)は、「ツンツンしていて愛想がない」。
昏睡状態のお爺さんジョニーは、「子供のように、幼稚な部分があり」、
記憶の中にいるジョニーの恋人リヴァーは、「謎が多すぎて良くわからない(序盤)」。

そして、これはゲームをクリアした現在でも、そう大きくは変わっていません。

尺の関係もあるにせよ、キャラクターを「キャラクターとしてしか」感じられない、
つまり、「実在する存在」として受け取る事ができないのです。

もし、私が幼い子どもであれば、そんな事は、気にならなかったでしょう。

私が幼い子どもであれば、
登場する「ゲーム的」キャラクターをそのまま受け入れることができたでしょう。

しかし、良くも悪くも、大人になってしまった今では、それができないのです。

作り物は、作り物だとわかってしまうのです。

であれば。

であればなぜ、こんなにも、この物語は「泣ける」のか……?

「自分のした苦労に対して泣く、んでしょ?」

『大神』と、『MOTHER2』で、私は泣けます。

しかし、この二つの作品が、三時間弱の短編であったなら、
おそらく感動は半減し、泣くことは難しくなるかもしれません。

それは、宮本茂さんの言葉に引きつけて言うならば、
「自分の苦労(プレイ時間)」の蓄積が足りないからです。

では、本作がたった三時間でその「壁」を乗り越えられたのはなぜか。

それは、端的に言って
『TotheMoon』が、「私たちプレイヤー自身を、過去に還す」からです。

オールド・スクールな、ドット絵のグラフィックや、
RPGツクール由来の、カクカクとした動作。
「過去の記憶へとさかのぼり」、「作り物の世界の中」で「夢を達成する」という流れを、
「感情移入できない操作キャラクター」によって行う、ゲーム体験。

これらの要素一つ一つが、「プレイヤー自身」の「幼い頃のゲーム体験」との「メモリリンク」となり、
やがて、「プレイヤーを、プレイヤー自身の過去」へと、誘う
のです。

「現実世界に留まっている方の、大人な私」は、それを冷静に分析しています。

「これは作られたストーリーだ」。
「これは作られたキャラクターだ」。
「すべて、作り物だ」。

しかし、『TotheMoon』によって、
幼い頃、当たり前にもっていた「純粋性」の手触りを思い出してしまったら。

プレイヤーは、大人に「なってしまっている」自分と、
「過去の自分が、当たり前に持っていたはずのもの」とによって、引き裂かれます。

しかし、「純粋性」を象徴するリヴァー、彼女は「ここには、もういない」のです。

そして、誰もが、半ば予想していたであろう結末が、「それは、もう戻らない」と繰り返す。

その「喪失」を、実感として知っている、大人であればあるほど
『TotheMoon』に、より強く、胸を打たれることになります。

つまり、恐らく、本作で号泣した、という人の多くは、
ゲームの「ストーリー自体」に感動しているわけではないのです。

言うなれば、『TotheMoon』は、
「プレイヤー自身が積み上げた、あの頃の(ゲーム)体験(自分の苦労)」を
「まるごと」感情のフックとして利用し、
「プレイヤーの中の純粋性」が、「既に死んでしまっている」という、
どうしようもない事実を突きつけることで、その尊さを再確認させる装置
なのです。

だからこそ、三時間弱という、短いプレイ時間であるにも関わらず、
多くの人の、心を揺さぶることができたのです。

そして、この「プレイヤー自身が積み上げた、ゲーム体験利用」こそが、
冒頭で述べた『TotheMoon』の「巧妙なしかけ」です。

それは、
宮本茂さんの言葉に対する、「鮮やかなる解答」になっているのと同時に、
本作が「ゲームでなければ成し得なかった表現である」と言い切るのに十分な根拠を与えている
というのが、私の見解です。

最後に

はてさて、
これらの全てを、デザイナーが意図していたのか、
あるいは、たまたま、そうなっていったのか。
正直なところ、私はまだ、それを、掴みかねています。

また、
この物語を、「大人である自分が、そのまま素朴に受け取ろう」としてしまった場合、
どこか違和感のある、そしてどうも腑に落ちない、「幼稚で安いツクール作品」へと
瓦解してしまう可能性は、たしかにあります。

さらに言えば、「純粋性を失っていない人」にしてみれば、本作は、
さっぱりピンと来ない、「当たり前のことを言っている」三流ドラマに
見えてしまう可能性だってあります。

しかし。
私は、本作を薦めることを、躊躇しません。

なぜなら、このサイトを読んでくださっているような、
熱心なゲームファン(であろうはず)のあなたに、本作が響かないわけがない。

『TotheMoon』は、きっと、あなたの琴線に触れる。
私は、そう思っています。

さあ、出かけましょう。

「あの頃」へ。

◆販売サイト

http://www.playism.jp/games/tothemoon/

◆書いた人
@Shoji_Hibino
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